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東京高等裁判所 昭和52年(行コ)23号 判決 1979年5月22日

東京都八王子市元本郷町三丁目八番一二号

控訴人

小金井巽

右訴訟代理人弁護士

斎藤展夫

山下正祐

東京都八王子市子安町四丁目四番九号

被控訴人

八王子税務署長

何蘇谷博

東京都千代田区霞ガ関三丁目一番一号

被控訴人

国税不服審判所長

岡田辰雄

右両名訴訟代理人弁護士

島村芳見

右両名指定代理人

高橋実

被控訴人八王子税務署長指定代理人

酒井保一

中川昌泰

小笠原英之

辰尾明吉

被控訴人国税不服審判所長指定代理人

佐々木毅

右当事者間の更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人八王子税務署長が昭和四四年三月一五日付でした控訴人の昭和四〇年ないし昭和四二年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取消す。被控訴人国税不服審判所長が昭和四五年七月九日付でした控訴人の昭和四〇年ないし昭和四二年分の所得税更正処分にかかる審査請求を一部棄却した裁決を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、主文第一項同旨及び「訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

一  訂正

原判決三枚目表一行目の「四二年」の次に「(以下「本件各係争年」という。)」を、同七行目の「裁決」の次に「(以下「本件裁決」という。)を、七枚目裏三行目の「原告の」の次に「本件各」を、一二枚目裏末行目の「一〇〇とした場合の」の次に「昭和四一年一月から五月まで及び同年九月から一二月までの」をそれぞれ加え、一三枚目表一行目、同四行目の各「二二三・二%」を「二三三・二%」と、一四枚目裏末行目、一六枚目表二行目の各「七、一〇一、一八六」を「七、一四一、一八六」とそれぞれ改め、二〇枚目表六行目の「本件」の次に「各係争年分の所得税に関する調査(以下「本件調査」という。)」を、二一枚目裏七行目の「という。)」の次に「に対する」を、二三枚目裏四行目の「署長は」の次に「、本件」を、二五枚目表三行目の「店舗兼居宅」の次に「(以下「本件店舗兼居宅」という。)」をそれぞれ加え、同八行目の「(本件事業用部分)」を「(以下「本件事業用部分」という。)」と、三〇枚目表一〇行目の「本件税務調査」を「本件調査」と、四二枚目裏三行目、同五行目の各「各年分」を「本件各係争年分」とそれぞれ改める。

二  控訴人の主張

1  本件更正処分に関する違法事由について

(一)  質問検査権の行使の違法性について

質問検査権の行使の必要性は、過少申告の具体的嫌疑があるか、又はその可能性が高度に認められる場合に限られるべきであり、原判決のいうように、申告の真実性、正確性を審査すべき合理的必要性のある場合を含むとは解することができない。けだし、このように解釈しなければ、所得税法がとっている自主申告制度は形がい化され、課税庁の恣意が助長される危険が大きくなるからである。

そして、本件においては、控訴人は、いわゆる白色申告者であり、税法上帳簿備付の義務がなく、確定申告書には「所得金額」欄を記載すれば足り、「収入金額」、「必要経費」の各欄を記載する義務もなく、税務署による納税相談、申告指導においても右「所得金額」欄のみを記載する旨の指導が行われていた。しかるに、本件調査は、控訴人の確定申告書に右「収入金額」、「必要経費」の各欄の記載が欠けていた事実、控訴人に関する丸共青果市場からの仕入資料及び控訴人が自動車を取得した事実等の一般収集資料に基づいて行われたものであって、質問検査権の行使については、合理的必要性が存在しない。

また、質問検査権の行使にあたっては、課税庁は、調査日時の事前連絡、調査の理由や目的の開示をする義務があると解すべきである。そして、昭和五〇年六月の第七二国会において採択された中小業者提出の税制改正に関する請願の一項目にも「税務行政の改善については、税務調査に当たり、事前に納税者に通知するとともに、調査は理由を開示すること」が取り上げられており、また、国税庁の昭和五〇年度税務運営方針においても「一般の調査においては、事前通知の励行に努める」ことが掲げられている。しかるに、本件調査においては、右義務は全く履行されず、国会の決議等も無視された。

(二)  他事考慮について

本件調査は、民商の組織の破壊を目的とする違法な調査である。すなわち、昭和三八年当時、国税庁長官は、「民商を三年以内につぶす。」と発言し、それ以来、中野民商に対する弾圧事件が発生したほか、税務署は、民商を反税団体として、露骨な反民商宣伝を行い、民商に対する攻撃、弾圧を行ってきた。ところで、控訴人は、八王子民商の会員であり、その税対部長として活動していたが、税務署は、控訴人に対し、民商から脱退させる工作をすることが困難であったため、本件調査を行ったうえで、本件更正処分を行い、その組合員に民商会員が多かった丸共青果市場における民商の影響力を弱め、民商の中心勢力に打撃を加えることを目的として、本件調査を行った。したがって、本件調査は、調査に名をかりた民商に対する攻撃、弾圧であって、違法であるから、同調査に基づく本件更正処分は違法であり、また、これを看過した本件裁決も違法である。

(三)  推計の必要性について

被控訴人八王子税務署長(以下「被控訴人署長」という。)所属の係官は、控訴人方に臨店した際、調査日時についての事前通知をせず、調査の理由、目的等をも告知をしなかったから、控訴人としては、かかる調査に協力する義務がなく、控訴人が右調査に応じなかったことは、正当な権利の行使であり、調査に対する不協力にあたらない。また、控訴人が売上、仕入、経費等を記載した手帳を確定申告書提出後に紛失して保存していなかったとしても、控訴人は、白色申告者であり、帳簿備付の義務はないから、右手帳を保存する義務もない。

更に、被控訴人署長は、丸共青果市場の反面調査により、資料箋を作成し、控訴人の仕入状況をすべて把握し、また、同市場以外の仕入(牛乳、コンニャク等)は僅少であって、控訴人の店舗の外観からも容易に把握することが可能であった。そして、牛乳については、被控訴人国税不服審判所長(以下「被控訴人所長」という。)は、昭和四二年六月から八月までの仕入金額二万九三一七円という実額を把握していた(丙第三号証参照)。したがって、被控訴人らは、本件各係争年分の所得税について実額課税を行うことができた。

右のとおりであるから、被控訴人らが控訴人に対して推計課税を行う根拠、必要性は存在しなかった。

(四)  推計の合理性について

(1) まず、原判決は、控訴人の同業者の抽出方法に合理性があるとするが、これは誤りである。同種同業者がいかなる範囲の同業者であるか(たとえば、東京国税局管内の平均であるか、八王子税務署管内の平均であるか、本件におけるようなa、b、c、dであるか)により、計数が変化するから、同業者の市場仕入率、売上原価率、一般経費率の合理性を認めることは誤りである。

また、被控訴人らは、本件における推計の根拠の合理性を立証するため、控訴人と同業者であるa、b、c、dという者を挙げた以上、その住所、氏名、営業の内容等を明示する義務がある。けだし、これによって、控訴人とこれらの者とを比較するための資料が得られるからである。しかるに、被控訴人らは、守秘義務を理由として、右同業者を明らかにせず、公平さが担保できず、不当である。

更に、本件においては、控訴人の調査により、a、b、c、dの同業者が判明したが、aの市場仕入金額に誤りのあることは被控訴人らの認めるところであり(乙第五号証の一参照)、また、控訴人とa、b、c、dの同業者とは、売場面積、従業員数、営業場所、店売りの割合等において差異があることを考慮すれば、被控訴人署長の推計方法には合理性がない。ちなみに、控訴人の丸共青果市場からの仕入率は九五パーセントであるが、原判決がこれを無視し、これが個別的特性であり、平均値に吸収、捨象されるとしているのは重大な誤りである。

(2) 元来、推計による課税は例外であり、合理的な根拠がなければ、違法である。そして、推計を行う場合にも、できるだけ実額によるべきであり、やむをえない場合にのみ、一定の合理的根拠のある統計等によって行うべきである。また、この場合にも、その前提として、調査が適法にされなければならない。しかるに、本件においては、推計課税を行う合理的根拠がないことは前記(三)に述べたとおりであり、また、本件調査が違法であることは前記(一)、(二)に述べたとおりである。

(3) 次に、本件における推計課税は、計数上も合理的根拠がないものである。

(イ) 本判決添付別表第一記載のとおり、被控訴人らの主張する控訴人の所得金額は、本件更正処分時、本件裁決時、本件訴訟時(主張の変更があり、二種類のものがある。)で、それぞれ異なっている。これは、大部分が差益率の差によるものであり、一部は把握された実額の差によるものであるといえるが、結局、計数上、合理的根拠をもたないことに帰着する。

(ロ) そして、被控訴人らは、更正処分の取消訴訟において更正又は審査決定では考慮されなかった事実を処分を正当とする理由として、新たに主張することが可能である旨(最高裁判所昭和四二年九月一二日判決参照)を主張するが、これは正当でない。けだし、本件で問題とされるのは、原処分時の推計の根拠が合理的であったかどうかであるからである。また、本件においては、被控訴人らは、本件裁決時に考慮された事実又は知っていた事実を訴訟において隠そうとするものであり、右最高裁判所の判例の説示するところにはあたらない。

(ハ) また、前記(四)、(1)に述べたとおり、本件においては、a、b、c、dの同業者が判明し、これらの者と控訴人とは店舗の規模、営業条件等が異なるのであり、しかも、cの所得金額は、被控訴人らの主張とは大幅に異なるものである。そして、このような具体的な条件を十分加味したうえで、推計の根拠を検討するのでなければ、推計の合理性は担保されない。しかるに、被控訴人らの推計は、右のような具体的な条件を総合的に判断し、加味したものではなく、その根拠において合理性がない。

(4) 具体的推計の内容について若干の検討を加えれば、次のとおりである。

(イ) 売上、仕入、利益

右の点について本件更正処分は、青果物、食料品と牛乳との区分をしないで、推計を行い、本件裁決は、昭和四二年分についてのみ右区分をして推計を行い、本件訴訟において被控訴人らは、右区分をして、その主張をしている。

ところで、被控訴人らの推計においては、右の点について控訴人と前記a、b、c、dの同業者との具体的な営業条件の差異が考慮されたものではなく、また、控訴人の丸共青果市場からの仕入率が九五パーセントであることを無視しており、合理性がない。

また、牛乳については、本件裁決において控訴人が昭和四二年六月から牛乳を販売しているとし、その実額が把握されているのに、本件訴訟において被控訴人らは、控訴人が昭和四〇年から牛乳を販売しているが、昭和四〇年ないし昭和四二年の間は、その実額の把握が不可能であるとして、牛乳小売店を中心とした統計表による推計をしている。ところで、牛乳の店頭売店の主要な業種別の割合をみるのに、六大都市においては、パン菓子店七五・六パーセント、酒類販売店六・九パーセント、食料品店一二・五パーセント、その他五パーセントであり、控訴人のように八百屋でストッカーによる販売をしている程度のものとは比較できない。右のような牛乳小売店の資料をもって控訴人の場合について推計をすることは、合理性を欠くものである。

(ロ) 一般経費率

一般経費についての被控訴人らの主張は、本判決添付別表第二記載のとおりであって、いずれが合理的であるかが判然としない。しかも、被控訴人らは、前記(イ)に述べたとおり、本件訴訟において控訴人の収入について青果物、食料品と牛乳との区分をして計算をしていないから、一般経費に関し、牛乳についての経費が全く考慮されず、不合理である。

(五)  特別経費について

(1) 家賃

原判決は、控訴人の家賃についての改定が行われず、家賃の六〇パーセントのみを事業用として推計しているが、これは誤りである。すなわち、控訴人は、家主から事業用部分として、横二間半、縦一間半の土間と四畳の部屋を賃借し(甲第二号証参照)、次いで、居住用部分として、右四畳の部屋の裏壁を打ち抜いた台所付きの六畳間を賃借した。ところで、右土間は、青果物、食料品の置場として使用され、また、右四畳の部屋は、食料品、会計用計算器等の置場や店番用として使用されているから、いずれも事業用部分にあたる。したがって、被控訴人らが右四畳の部屋を居住用として、経費を推計することは誤っている。

(2) 雇人賃

控訴人は、妻の出産、つわりのため、土田サヨ子をアルバイト(店番)として使用し、現実に給料を支払ったから、その金額は、当然、特別経費として控除されるべきである。

2  本件裁決に関する違法事由について

(一)  本件裁決は、審査請求にかかる本件各係争年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各原処分」という。)に関する調査の違法性、推計方法の不合理性等を看過し、十分な理由を示さず、違法である。

(二)  次に、本件裁決は、本件各原処分の一部取消(減額)をするが、その理由は不備であって、同処分のどの部分に誤りがあるかが全く不明であり、違法である。

三  被控訴人らの主張

1  控訴人の本件更正処分についての違法事由の主張に対する被控訴人署長の主張

(一)  質問検査権の行使の必要性について

(1) 質問検査権の行使の必要性は、過少申告の具体的嫌疑がある場合に限られず、広く申告の適否、すなわち申告の真実性、正確性を審査すべき合理的な必要性のある場合にも認められると解するのが相当である。

そして、本件においては、原判決の認定するとおり、被控訴人署長は、控訴人の本件各係争年分の確定申告書(乙第一ないし第三号証の各一、二)に収入金額、必要経費の記載がないこと、その他諸般の事情を考慮して控訴人に対して申告の適否を調査するため、質問検査権を行使すべき合理的必要性を認めたのである。

(2) また、質問検査権の行使にあたっては、控訴人主張のように、課税庁が調査日の事前連絡、調査の理由や目的の開示をする義務があるとはいえない。けだし、所得税法第二三四条第一項は、質問検査の範囲、程度、時期、場所等その実施の細目については、格別の定めをしていないが、これら調査方法の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきであり、また、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的告知のような事項は、質問検査を行ううえの法律上一律の要件とされているものではないと解すべきだからである(最高裁判所昭和四五年(あ)第二三三九号昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集第二七巻第七号一二〇五頁参照)。

(二)  他事考慮について

(1) 被控訴人署長は、本件調査及び本件更正処分を行うにあたり、民商の組織を破壊する意図を有していたものではない。

すなわち、昭和三八年五月当時、税務職員の行う税務調査に関し、各地において民商側との間に質問検査権の行使等について紛争が数多く発生していた。そこで、木村国税庁長官は、そのころ、各国税局長あてに民商会員の税務調査に関し、通達を発したが、その内容は、要点として、(イ) 租税の公平確実な負担を図るため、調査にあたっては、調査妨害等があっても、中途半端な点で調査を打ち切ることなく、調査の目的を達成すること、(ロ) 納税者の協力が得られない場合には反面調査等を行って課税資料を収集すること、(ハ) 調査に際しては、民商の事務局員若しくは役員又は会員の立合を原則として拒絶することの三点を指示するものであって、民商を不当に攻撃ないし弾圧することを目的としたものではない。また、同長官が民商会員に対する脱会工作を命じたり、その指揮をしたりしたことはなく、更に、昭和三八年一月三一日の各国税局の直税部長会議における指示(乙第一六号証参照)は、国税庁の右方針に従ったもので、なんら不当な点はない。そして、本件調査の対象に控訴人を選定したことについては、控訴人が八王子民商の役員であったことを理由とするものではない。

次に、昭和三八年以降、民商会員に対する調査に関し、公務執行妨害事件が発生した事例があったが、これは、民商会員又は事務局員らが税務職員に対し、調査を妨害し、暴行を加えたこと等に起因したものであり、民商を攻撃ないし弾圧することを目的としたものではない。

更に、民商会員である訴外木村トク、同江藤忠良、同須藤七郎、同尾崎敏明、同青木久市に対する更正処分が裁決により、その税額が減額されたことはあるが、これは、その手続に違法性があったことによるものではなく、また、民商会員である訴外田部井三吉に対する昭和四六年分の所得税の更正処分が取消されたが、これは、更正手続の誤りによるものであり、右各更正処分は、いずれも民商の組織を破壊する目的でされたものではない。

(2) 次に、元来、課税処分の違法性の有無は、処分における課税標準又は税額が客観的に正当とされる額を越えているかどうかによってのみ決せられるべきものであり、右処分がいわゆる他事考慮に基づくかどうかは、右処分の違法性とはなんら関係がない事柄である。

(三)  推計の必要性について

(1) 控訴人の本件各係争年分の所得税については、推計の必要性があったものであり、その事情は、次のとおりである。

すなわち、控訴人は、被控訴人署長の本件調査については、終始、協力せず、所得税の調査に必要な資料等の提出を拒否したのであり、この点については、被控訴人らが原審において主張したとおりである。そして、原判決も、この点について、このような場合には、推計により、控訴人の所得金額を算出するほかには、方法がない旨の判示をしている。

(2) また、控訴人は、本件調査に応じなかった理由として、調査が違法であった旨主張するが、本件調査が違法でないことは、前記(一)、(2)に述べたとおりである。

(四)  推計の合理性について

控訴人が本件各係争年分の所得税に関する推計に合理性がないとする理由は、(イ) 同業者の抽出方法に合理性がないこと、(ロ) 同業者の住所、氏名を明らかにしないこと、(ハ) 控訴人には特殊事情があることの三点にある。

しかし、右(イ)の点については、原判決の認定するとおり、被控訴人署長が同業者を抽出選定するにあたり、恣意の働く余地は全くなかった。また、右(ロ)の点については、同業者がa、b、c、dの記号で表示され、住所、氏名をもって、特定されなかったことにより、控訴人がその立証上、若干の不便を伴うことはあるが、立証の工夫により他に反証を挙げることは、さして困難ではなく、他方、同業者を右のように記号で表示し、これを特定しないことは、国家公務員法第一〇〇条第一項、所得税法第二四三条所定の税務職員の守秘義務に基づくものであり、また、同業者の秘密が、税務調査に協力しないため、推計課税を受ける他人である控訴人の納税訴訟上の便宜のために犠牲に供されなければならない理由もない。更に、右(ハ)の点については、原判決の判示するとおり、控訴人には格別特殊な事情が存在することを認めることができず、通常存する程度の個別的特性は平均値の中に吸収され、捨象されるものと解して、さしつかえないというべきである。

また、控訴人は、控訴人の店舗の規模が同業者のそれと比較して小さいから、同業者の平均市場仕入率、売上原価率、一般経費率等の係数を控訴人に適用することには合理性がない旨主張するが、青果業のように、店舗数の多い業種においては、自由競争の原理により、一定の差益率、所得率が形成されるから、店舗の規模は売上げの多寡とは関連性があっても、差益率とは関連性が薄いので、控訴人の総仕入額が同業者のそれと類似する以上、右店舗の規模に関する類似性をも結果的には十分に充足しているといえる。

したがって、被控訴人署長の行った推計課税が不合理であるということはできない。

(五)  特別経費について

(1) 家賃

被控訴人署長が控訴人の本件店舗兼居宅の家賃のうち、土間に相当する部分の家賃、すなわち本件店舗兼居宅の家賃を面積比で按分した金額四万六八〇〇円を特別経費として控除した措置は、原判決の判示するとおり、正当である。

(2) 雇人費

原判決の判示するとおり、土田サヨ子は、控訴人の事業を臨時的に手伝ったにすぎないから、専ら右事業に従事したもののとはいえず、かつ、本件各係争年分の確定申告書には事業専従者控除額の記載がされていないことが明らかであるから、被控訴人署長が控訴人において土田に支払ったと主張する金額を必要経費として算入しなかった措置は正当である。

2  控訴人の本件裁決についての違法事由の主張に対する被控訴人署長の主張

(一)  被控訴人署長は、本件裁決にあたっては、本件各原処分に関する調査の違法性の不存在及び推計の合理性を十分審理して裁決したから、本件裁決には調査の違法性及び推計の不合理性を看過した違法はない。

(二)  次に、被控訴人署長は、本件裁決の裁決書に本件各原処分の一部取消(減額)の理由を明記し、理由附記に不備がないから、本件裁決には理由不備の違法はない。

四  当審における新たな証拠

1  控訴人代理人は、甲第一七号証の一ないし一一、第一八ないし第二〇号証の各一ないし六、第二一号証の一ないし三、第二二号証の一ないし五、第二三ないし第二七号証、第二八号証の一、二、第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一号証、第三二号証の一、二、第三三ないし第三五号証、第三六号証の一、二、第三七号証を提出し、甲第二八号証の一、二は横田安平方店舗の、甲第二九号証は峯尾一重方店舗の、甲第三〇号証の一、二は栗村ヨシ方店舗の、甲第三一号証は秋間某方店舗の、甲第三二号証の一は控訴人方店舗の、甲第三二号証の二は控訴人所有の自動車の各昭和五三年六月一六日当時の状態を撮影した写真であり、甲第三七号証は控訴人方店舗の同年九月当時の状態を撮影した写真であると付陳し、当審証人大金慶雄、同山下利久の各証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一五号証の一ないし三の成立は認める、乙第一六号証の成立は知らないと述べた。

2  被控訴人ら代理人は、乙第一五号証の一ないし三、第一六号証を提出し、甲第一七号証の一ないし一一、第一八ないし第二〇号証の各一ないし六、第二一号証の一ないし三、第二二号証の一ないし五の成立は認める、甲第二三ないし第二七号証、第三三ないし第三五号証、第三六号証の一、二の成立は知らない、その余の前記甲号各証が控訴人付陳のような写真であることは知らないと述べた。

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由については、次のとおり付加、訂正するほか、原判決と同様であるから、その説示(原判決四四枚目表二行目から六一枚目末行目まで)を引用する。

1  原判決四四枚目裏一行目の「申告納税を担保し」から同七行目までを次のとおり改める。

「所得税の適正、公平な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するための制度、手続として認められたものである。

ところで、所得税法第二三四条に規定する「調査について必要があるとき」とは、権限のある税務職員において、具体的事情にかんがみ、客観的な必要があると判断する場合をいうのである(最高裁判所昭和四五年(あ)第二三三九号昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集第二七巻第七号一二〇五頁参照)。そして、確定申告後に行われる所得税に関する調査については、適正、公平な課税目的の実現という質問検査制度の目的からみて、確定申告にかかる課税標準又は税額等が過少である等の疑いが認められる場合に限られず、広く右申告の適否、すなわち申告の真実性、正確性を調査するために必要がある場合も「調査について必要があるとき」に含まれるものと解するのが相当である。」

2  原判決四六枚目表一行目の次に次の文章を加える。

「所得税法第二三四条は、質問検査の範囲、程度、時期、場所等その実施の細目については、特段の定めをしていないが、これら調査方法の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である(前記最高裁判所昭和四八年七月一〇日決定参照)。」

3  原判決四六枚目表二行目の「事前通知」の前に「そして、質問検査実施の日時場所の」を加える。

4  原判決四六枚目裏末行目から四七枚目表七行目までを次のとおり改める。

「以上の事実によれば、被控訴人署長が控訴人に対して本件調査を行ったのは、控訴人の本件各係争年分の確定申告について過少申告がされているとの疑いをもち、右申告の適否を調査することを目的としたものであり、それ以上の他意はなかったとみるのが相当である。そして、本件調査が民商の組織を破壊する意図のもとにされたと目しうる事実を認めるに足りる証拠はない。」

5  原判決四八枚目表三行目の「本件弁論上」を「本件の審理の経過に徴し、」と改め、同裏三行目の「原告は、」の次に「牛乳については、」を加える。

6  原判決四九枚目表末行目の次に次の文章を加える。

「まず、控訴人は、被控訴人らが本件訴訟において本件更正処分時又は本件裁決時に考慮されなかった新しい事実を主張し、控訴人の所得金額を本判決添付別表第一記載のとおりであるとして、本件更正処分における推計の合理性について主張することは許されない旨主張するので、検討する。

ところで、いわゆる白色申告に対る更正処分の取消訴訟においては、右処分の正当性を維持する理由として、更正及び審査の段階において考慮されなかった事実を新たに主張することも許されると解するのが相当である(最高裁判所昭和五〇年(行ツ)第一〇号昭和五〇年六月一二日第一小法廷判決・訟務月報第二一巻第七号一五四七頁参照)。けだし、いわゆる白色申告に対する更正処分においては、いわゆる青色申告に対する更正処分をする場合(所得税法第一五五条第二項)のように、更正通知書に更正の理由を附記すべきものとは規定されていない(国税通則法第二八条第一、二項、所得税法第一五四条第一、二項)から、当該課税処分の同一性を害しない範囲においては、異った理由の主張立証が許されると解されるからである。

そして、本件においては、記録に徴すれば、被控訴人らは、より合理的な推計をするため、控訴人主張のように、控訴人の所得金額に関する主張を改めたにすぎないことが明らかである。したがって、被控訴人らが右のように主張を改めたことをもって、違法であるということはできないから、控訴人の右主張は採用することができない。」

7  原判決五〇枚目表五行目の「経続」を「継続」と、五一枚目表三行目の「証人大金慶雄の証言(第二回)」を「原審及び当審証人大金慶雄の証言(原審分は第二回)」と、同裏八行目の「これに反する」から同九行目の「採用し得ない。」までを「原審証人今村泰男の証言のうち右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比して、たやすく信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。」とそれぞれ改め、五二枚目表一行目の「同業者」の前に「前記」を加える。

8  原判決五二枚目表五行目から同七行目の「大差のないこと、」までを次のとおり改める。

「前掲甲第一六号証、当審証人大金慶雄の証言により控訴人付陳のような写真であると認められる甲第二八号証の一、二、第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一号証、第三二号証の一、二、同証言により真正に成立したと認められる甲第三三号証、当審における控訴人本人尋問の結果により控訴人付陳のような写真であると認められる甲第三七号証、原審及び当審証人大金慶雄の証言(原審分は第二回)を総合すれば、控訴人と前記同業者間においては、売場面積、従業員数には大差がないこと、なお、青果業においては、売場面積の差は売上げの多寡とは関連性をもつが、差益率とは必ずしも関連性をもつとはいえないこと、」

9  原判決五二枚目表八行目、同末行目の各「同業者」の前にいずれも「前記」を加え、同裏二行目の「することには、」を「することは、」と改め、同裏五行目、同八行目の各「同業者」の前にいずれも「前記」を加え、同一〇行目の「昭和四一年」を「昭和四二年」と改める。

10  原判決五二枚目裏末行目の「認められ」から五三枚目表二行目の「ものである。」までを次のとおり改める。

「認められ、また、a、b、c、dの同業者が丸共青果市場以外から仕入れていた商品を明らかにする証拠もない。」

11  原判決五三枚目裏九行目から五四枚目裏一行目までを次のとおり改める。

「前掲乙第一四号証、原審証人鈴木正常、同鈴木三郎の各証言、弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は、昭和四〇年六月から牛乳を販売していることが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

ところで、前掲乙第四号証、第五号証の一ないし三、原審証人今村泰男の証言を総合すれば、被控訴人署長は、東京国税局長から、昭和四六年九月二一日付通達をもって、(1)青果及び食料品の推計資料作成のため、同業者として、青果及び食料品小売業を営み、かつ、丸共青果市場から商品の一部を仕入れている個人事業者を抽出し、(2)牛乳分の推計資料作成のため、同業者として、青果及び食料品小売業を営むかたわら、ストッカーによる牛乳販売を行う個人事業者を抽出すること、被控訴人署長は、右(1)の同業者として、a、b、c、dの同業者を抽出したことが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

しかし、a、b、c、dの同業者が本件係争年において牛乳の販売を行っていなかったことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前掲甲第一六号証によれば、右同業者のうちには本件係争年において牛乳の販売を行っていた者があることが認められる。

12  原判決五四枚目裏二行目、同四行目の各「同業者」の前にいずれも「前記」を加え、五六枚目表四行目の「係争年順」を「本件各係争年順」と改める。

13  原判決五六枚目表末行目から同裏一行目までを次のとおり改める。

「原審証人小金井律子の証言、原審における控訴人本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は、前記各証拠に対比してはたやすく信用できず、原審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証の記載のうち右認定に反する部分は、同本人尋問の結果によっても明らかなように、安藤安が一方的に記載したものであって、たやすく信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。」

14  原判決五六枚目裏六行目の「原告本人尋問の結果」を「原審における控訴人本人尋問の結果(但し、前記信用しない部分を除く)」と、同八行目の「明らかである。」を「認められ、右認定を妨げる証拠はない。」と、五七枚目表九行目の「原告本人」から同行目の「供述により」までを「原審における控訴人本人尋問の結果(但し、いずれも前記信用しない部分を除く)及びこれらにより」と、同裏九行目の「(後記」から同一〇行目の「(除く。)」までを「、原審における控訴人本人尋問の結果(但し、証人小金井律子の証言、控訴人本人尋問の結果のうち前記信用しない部分を除く。)」とそれぞれ改め、五九枚目表四行目の「被告」の次に「署長」を加え、同一〇行目の「理由がない」の次の「。」を削り、同末行目の「金額は、」を「金額」と改め、同裏一行目の「証言」の次に「(第二回)」を加え、同裏三行目の「被告」を「被告ら」と改め、同四行目の「金額となる。)」の次に「。」を加える。

15  原判決五九枚目裏五行目から六〇枚目表三行目までを次のとおり改める。

「そこで、控訴人の本件各係争年分の所得金額について検討すると、同係争年度における控訴人の丸共青果市場からの仕入金額、雑収入が被控訴人ら主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、右事実と以上述べたところを総合すれば、控訴人の右所得金額が次表のとおり(円未満は四捨五入)となることは計算上明らかである(但し、原判決添付(別表一)、(別表二)の各市場仕入率、売上原価率、一般経費率については、小数点三位以下は四捨五入し、原判決六二枚目表七行目の「七四・九二」を「七四・九三」と、同行目の「七六・四二」を「七六・四三」と、同一三行目の「四・二五」を「四・二六」と、同裏七行目の「七六・〇六」を「七六・〇七」と、同一〇行目の「八〇・八七」を「八〇・八六」と、同一三行目の「五・一六」を「五・一七」と、同行目の「四・六二」を「四・六三」と、同行目の「三・四九」を「三・五〇」と、同行目の「四・八一」を「四・八二」とそれぞれ改める。)。

<省略>

16  原判決六〇枚目裏五行目の「関しては、」の次に「これが」を加える。

二  以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は、いずれも失当として、棄却すべきである。

よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 枡田文郎 裁判官 山田忠治 裁判官 佐藤栄一)

別表 第一 所得金額一覧表

<省略>

別表 第二 一般経費一覧表

<省略>

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